LB開発計画記録-01

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1

「新しいロボット開発、ですか」

「そうだ、技術者として名高い君なら可能だろう」

入道雲に反射した日光の差し込む明るい会議室で、2人の男が話をする。とりわけ会議と言えるほどのものでもなさそうだが、さして重要な内容じゃない、というわけでもなさそうな空気感が辺りに感じられるだろう。

「しかし、我が社でもこのようなレベルの技術は流石に未成熟な部分が大きくあると思われますが……」

「そこをなんとかするのが君等だろう? 最低でも必要な資金は要望があれば捻出するつもりだ」

「は、はい。その点につきましては感謝致します。……が、流石にこの仕様書では……」

椅子に深く腰を掛ける重役クラスと思しき様相の男は、そのくらいなんとかしてくれよ、とさえ言いたげな重苦しい顔立ちでいるのが伺える。その無愛想な感じさえ見受けられる重役に、恐る恐るな様子で異を唱える白衣の男は、手渡された仕様書を片手に引きつった表情を見せている。

「……なあ、鞍崎。この企画が完遂されなかった場合の事を想像したことがあるか」

「想像ですか?」

「そうだ」

重役は、どこか呆れた様子で大きくため息をひとつつき、数秒待ってから立ち上がって大きな窓の付近へと足を運ぶ。そこで、鞍崎と呼ばれた男に対して質問を投げかけた。

「あれが発生して以降、パークは騒乱状態がずっと続いている。設立以来、あそこはとても盛り上がりを見せていたが、今ではその半分程度しか客足は無い」

「ええ。それについては存じております」

「なら、分かるだろう。裁判沙汰にもなった程だ、これ以上一般人に対して犠牲者は出せないだろう。上層部はこの問題が解決しなければ閉鎖も検討している、と口うるさく言われた」

「閉鎖、何もそこまで……」

鞍崎は最悪の事態を示唆する旨の発言をした重役に対して、さらに異を唱えようとした。だが、その先の言葉がどうにも発することができないようだった。

重役は、鞍崎の反論しようとした気持ちを汲み取ったのだろう、続けて話をする。

「パークの従業員も皆同じことを口にしたよ。おそらく君もそうだろう、あの島、あのパークを皆は愛している。だからこそだ」

「…………」

「鞍崎、君の課題があの島の存続を左右するかもしれない、ということだけ留意しておいてくれ」

鞍崎は終始重苦しい空気感に押しつぶされそうになりながら、ただ一言「了解しました」と告げて会議室を後にした。

2

2080年ごろにパーク内で存在が確認された特殊生物、「セルリアン」。サンドスターやアニマルガールと同じく、現在の物理法則や生物学的観点から見ても整合性の取れない存在の一つとして挙げられる不可思議な存在だ。ただ、唯一他のそれらと比べて危惧される点は、セルリアンは人やアニマルガールを襲うという点だろうか。

ある時に、そのセルリアンがパーク内の観光客とアニマルガールを襲ったという事件が発生し、死者さえ出る事態となった。それがきっかけでSNSやマスメディアはでは挙ってパークや運営をネガキャンし続けている。既に抑えの効かなくなったそれらを鎮めるために上層部は手をつくしているが、それでも限界があるのだろう、パークの閉鎖を検討する程度には状況は悪化し続けている。

そんな中、そのセルリアンから観光客やアニマルガールを保護する目的も兼ねて、鞍崎は先程の重役が所属している部署から命令を受けた。それこそが、

「LB開発計画、か……」

LBとは、先程の会話で言及されていた小型のロボットの事を指す。ゆくゆくはパークの案内補助ツールとして導入することをも見越して開発をするよう命令されていたが、手渡された仕様書を見る限り、その小型さではあまりにも実現が難しいほどに大掛かりな機能を有していることが分かった。彼は、どうやらそこの折り合いを付けることに頭を抱えているようであった。

「あら、何を悩んでいるのでしょう?」

「え? ああ、ミライさん。これはどうも……って、どうしてここに?」

鞍崎は人の少ないオフィスにて自身のデスクで今後のことについて頭を抱えていると、突然に肩を叩かれたのを感じた。振り返れば、今はパークでガイドを担当しているミライが話しかけてきたようだった。ひどい顔を見せる鞍崎を見て、彼女は心配そうな様子を見せる。

「今は少し用事があって本部の方に戻っているんです。セルリアンの調査報告書を提出に、と思って」

「ああ、それで今はこちらに居るんですね」

ミライとは、同時期にパーク関連の業務に配属された同期仲間だった。セルリアン騒ぎが起きる前はよくパークに赴いてはアニマルガールや他の職員と遊んだりしたものだが、騒ぎが起きて以降は、殆どそういうこともなくなってしまっていた。それ以降の関係は、彼女はパークでセルリアン対策チームに配属された旨の連絡が最近になって来たということくらいだった。

鞍崎はパーク事務局である本部と自社を行き来する生活をしているため現場の状況までは分からないが、彼女はそのチームで凄まじい実績を挙げていると聞く。どうやら今回はその業務関係で本部にやってきているようだったところで、顔を歪ます鞍崎を見かけたという。

「それで、リョウさんはどうされたんですか?」

「んー、それが新しい製品の依頼が上層部から来てですね、どう作ればいいものかと……」

「新しい製品……あ、これのことですか。可愛いですよね~これ」

ミライは仕様書に描かれていた製品のイラストを目にして、目を輝かせている。

「ええまあ、一応パークのマスコットをモデルにしてますからね。僕もこのデザイン自体は気に入ってます」

「ですよね! サーバルたちも気に入ってるって言ってましたから、いいデザインだと思いますよ!」

「あ、あなたのところのアニマルガールさんも気に入ってましたか、ははは」

二人は軽い程度に談笑を行う。ただでさえ現場では大変であろうパークガイドの仕事を休める場も多くはない。ミライにとっては、誰かと話をする事自体も休憩の一つとして考えているのだろう。

「……まあ、これをあのデザインのまま違和感なくロボットとして作るのは、なかなか大変なことなんですけどもね……」

「それは大変そう……けれど、リョウさんなら出来ると信じていますよ」

そんな中で、業務関係で悩める鞍崎を励ます彼女は屈託のない笑顔だった。本当に心から励ましてくれているのだろうと彼は感じた。

……それが、余計に心苦しかった。

「ははは、ありがとうございます。必ず良い製品に仕上げていきますから」

「頑張ってくださいね! リョウさん」

「ええ、善処します……」

「それじゃあ、私はそろそろパークに戻らないと。サーバルもカラカルも待ちくたびれてるかもしれないから」

そう言って、ミライはオフィスを後にした。

セルリアンの駆除作業も担当しているらしい彼女については、現場業務も受け持つ他の社員の話から時折耳にするようで。既に多くのセルリアンの駆除を行ってきた実績が彼女には、ミライにはあったようだった。新米だったあの頃とは大違いである。

それに対して鞍崎は、現場業務ではなくその周辺サポートに該当する業務に回されていた。言わば、パーク内で使われる作業端末やプログラムの設計責任者のようなものだ。彼は彼で、その方面においての知識には精通している。しかし、結局は中間管理職止まりで、特に企画として作ったものが評価されることもない日々を過ごしていた。そんな彼女と鞍崎との温度差や対比が、彼の胸を締め付けていた。

「…………」

今回のこのLB開発計画も、結局は評価などされることもないのだろうと半ば投げやりな気持ちが何処かにあったりするのだろう。半ば強引にこの仕様書でゴリ押しされたことも、彼の中では言いようのない憤りを感じざるを得ないところだった。それはもう、皆と同じくジャパリパークを愛しているはずなのに、それを否定してしまう思いさえもが発生してしまうほどに。閉鎖されてしまえばいいと思ってしまうほどに。

「……ともあれ、作っていかないと」

そう言って、鞍崎もミライの後を追うようにオフィスを後にした。