Tale:JAPARIコンソーシアム-開拓者-03

提供: ますとどんちほー図書館
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「ネリカ4到着まで36分の予想。サイノジャンプの場合は18分。」

アンドレイの予想到着時間を頭で戦況評価と混ぜてこね回す。

「九尾艦隊との通信を開け。」

ドリフターズの攻勢は予想より早かった。ネリカ4の防衛体制は不十分なものだったが、現在幸運にも付近でパトロール中だった即応艦隊本隊が応戦に当っている。

「九尾艦隊、こちら朱雀艦隊。サイノポータルは開けそうか?どうぞ。」

「ネリカ4のサイノジェネレーターは陥落した。本隊はゲート防衛に当たっている。遊撃中の第七フリートなら指示次第ポータルを開ける。」

「了解した。開く際は敵本隊付近で開いてくれ、追って指示あるまで継戦を頼む。」

「了解。九尾 アウト」

「ジャンプポータルとジャンプドライブで戦場に飛び込むぞ。全艦、艦載機発艦準備。イエローアラート。」

「了解。全艦、艦隊最大速度。」

アルカトが張った声で指示を出す。

「朱雀、後方待機の配置をどうするべきだと思う?」

「ネリカ3と8は今回任に当たる青龍でよいと思うのじゃが…問題はエデン・ガーデ4だな。青龍の位置から遠いし流石に3分割となると各個撃破の恐れもある。」

朱雀の観察眼を借りて今回の状況を整理する。

「提案は?」

「周辺星域の基地からディフリートを借りて当座の後方待機戦力にして、前線が突破され次第白虎艦隊を招集が妥当じゃろうな」

朱雀の現実的な提案が私の思考に確固たる確信をもたらしてくれる。

「同意見だ。青龍艦隊との通信を。」

「青龍艦隊、こちら朱雀艦隊、状況をどうぞ。」

「全艦稼働中。」

「青龍艦隊はネリカ3と8で二分割で待機に当たるよう。」

「了解。武運を。」

「そちらも。」

次は白虎に招集準備の指令を出さねば…そう思いつつ窓から見えるワープへと入る艦隊に目をやる。再編から3年と少しだが完璧な連携を作り上げている。

「36年ぶりの戦争だな。」

ふと呟く

「平和ボケで常備軍が解体されなくてラッキーでしたね。」

アルカトが副長席に戻ってくる。

「一つ気になる点が。」

次の言葉を促す。

「艦隊のサンドスター備蓄量が心もとない。スザクのみなら問題になる量ではありませんが現地星域避難作戦の為に搭乗している飛行フレンズ特殊小隊の分もとなると3日分のみです。」

ブリーフィング時から頭の片隅に置いていた問題を改めて引っ張り出してくる。

「交戦地帯にサンドスター輸送艦を呼び寄せるのは気が引けるな…青龍と九尾からも融通してもらった場合はどうだ?」

「一週間持つか持たないかです。」

「一週間あれば完全に終わらせられる。が、念のためにネリカ2にサンドスター輸送艦を手配しておこう。後退時は可能な限りネリカ3側に後退するように心に留めておけ。」

「了解。」

スザクがもどかしそうにしている。

「こうもサンドスター備蓄がネックになるとアニマルガールとして申し訳なくなるな。」

「こちらからお願いして艦隊名誉指令官をやってもらっているんだ。気にするな。本来はこちらが頭を下げなければならない事だ。」

「そうは言われてもじゃな…」

結局スザクの気分を晴らすことはできなかった。スザクの悲しそうな表情を見るたびに不器用な自分が悔しくなる。

「それに備蓄量は作戦遂行の問題にはならないし、問題にはしない。私の采配に任せておけ。」

「……すまんな。」

「よしてくれよ。問題を問題たりえなくするのが私の仕事だ。謝ることではない。」

「…」

沈黙が訪れる。こうなってしまっては打つ手がない。十数光年先の敵よりこちらの方が問題だ。

まだ時間があることを確認して立つ。椅子を持って行く先はスザクの元だ。

「上尾筒の手入れしてやるから、ほら、ブラシ貸して。」

椅子を置いて腰掛けつつ声を掛ける。無言でブラシが差し出される。

羽を梳きつつPDAを膝にのせて九尾艦隊からの敵情報に目を通す。

戦略評価の通りかなりの強敵らしい。九尾艦隊は交戦開始から20分にして既に艦隊の三割が戦闘不能に陥っている。

戦争は非生産的行為である。四半世紀以上生産的行為のみに注力してきた身にその事実が重くのしかかる。

この戦争はしばらく後手に回りそうだ。初めから撤退戦である。理事会にDEFOMEGA発令と周辺宙域の避難開始を進言しておこうと思い、空いた左手でPDAを操作する。

「いてっ」

スザクの声で意識がブラシを持った右手に引き戻される。引っ張ってしまったらしい。

「おっと、ごめんよ。」

「あぁ…我の綺麗な上尾筒が…」

わざとらしくこちらに眼差しを向ける。

「はいはい、申し訳ございませんでした。本日の一杯は奢りとさせていただきますので、何卒どうかお許しいただけないでしょうか?」

こちらも相応にわざとらしく返す。どうやら機嫌はよくなったらしい。

「コマンダー。」

アンドレイが呼ぶ

「何だ。」

「ジャンプ可能宙域に到着しました。」

「了解。副長。」

アルカトが振り返ったところで言う

「ジャンプポータルでサブキャピタル艦を投入した後ジャンプドライブでキャピタル艦も突入する。基本陣形α。全艦、艦載機最終待機。レッドアラート。」

「名残惜しいが、手入れはここまでとしよう。」

椅子を持って持ち場に戻ろうとするが、スザクに袖を掴まれる。

「奢り、忘れておらぬからな。」

そんな言葉に笑顔で返しつつ持ち場に戻る。

戦闘の中でもこの時間が一番長く感じる。

永遠とも思える時間も、優秀な部下たちの陣形形成の速さからか、心なしか短いように感じる。

「全艦配置完了。」

副長の報告で心を切り替える。戦闘だ。腕が鈍っていないことを信じるしかない。

「ジャンプポータルが開き次第サブキャピタル各艦とキャピタル各艦は突入すること。現場での指示なき場合は各自の判断で交戦せよ。」

「九尾艦隊との通信を。」

深く息を吸う。戦闘突入直後はよく息をすることを忘れてしまう。

「九尾艦隊、こちら朱雀艦隊。サイノポータルを展開せよ。」

「了解。……展開した。」

「ジャンプ!」

赤い閃光と共に艦が飛ぶ。最後に飛ぶのはジャンプポータルを開いている旗艦の朱雀だ。

「全艦突入。自艦も突入します。」

操舵士の声とともに窓の外が闇に包まれる。闇が空けるとそこは戦場であった。

「全艦、艦載機発進!攻撃目標はフリートコマンダーの指示に従え!各タイタンはドゥームズデイを準備し、追って指示あるまで待機。」

ドローン達が敵艦隊に向けて飛び立つ。火砲が、レールガンが、ブラスターが弾を飛ばす。幾千ものミサイルが飛び出す。

「戦術評価を」

副長がディスプレイを覗き込む。

「ほぼ互角です。しかし、別部隊が合流されたら分かりませんね。早急に非戦闘員の避難を始めましょう。」

「第四から第十フリートのサブキャピタル艦は再編し、完了次第ステーション避難作戦を開始せよ。救出フリート指揮はハクトウワシに一任する。飛行フレンズ特殊小隊は朱雀艦載戦艦より出撃せよ。」

各フリートコマンダーより了解の通信が入る。

「第九フリート了解。……第十フリート了解。……特殊小隊ハクトウワシ了解。搭乗します。」

ハクトウワシの頼もしい声を最後に艦が再編を始める。

しばらくしてまたハクトウワシの通信が入る。

「特殊小隊搭乗完了。発進許可を。」

「許可する。武運とサンドスターの加護があらんことを。」

「武運を。」

ハクトウワシ始め、特殊小隊が離艦する。彼女らにとって初の実戦だ。出来れば実戦など経験してほしくなかった。

艦隊が再編を終え、救出フリートがワープアウトする。

「主力艦をドゥームズデイで叩いてクールタイムが終わり次第救出フリートの援護に回るべきじゃろうな。」

スザクが提案する。

「順次射撃で脅威度の高い艦から確実に撃破するべきでしょう。」

アルカトが続く。

「そうだな。脅威度設定はアルカトに一任する。」

アルカトの頷きを確認し、通信を開きながら言う。

「全タイタン、指示でドゥームズデイを発射せよ、目標は副長の指示に従え。」

脅威度を算出しつつアルカトが尋ねる。

「朱雀のドゥームズデイも使用しても?」

「許可する。」

「了解」

脅威度の算出が終わったらしく、メインディスプレイにターゲッティングがされる。

「第一目標、中央右翼寄りのトランス・スーパーキャピタルクラスの戦艦。朱雀、第一フリート各タイタン、ステンバイ……ファイヤ。」

幾つもの粒子の筋が吸い込まれるように敵艦に照射される。

「与損傷…予測の109%…許容範囲内。第二から第五フリート各タイタン、ステンバイ……ファイヤ。」

「与損傷、予測の103%……許容範囲内。第六フリート各タイタン、ステンバイ……ファイヤ。」

「与損傷……予測の95%、許容範囲内。第七フリート各タイタン、ステンバイ……ファイヤ。」

アルカトの淡々とした報告と指示に従い、次々と審判が下る。

「与損傷、予測の101%、許容範囲内。次の打撃で撃沈します。」

いいニュースに頷くとトドメを刺す準備に差し掛かった。

「第八及び第九フリート各タイタン、ステンバイ。第九フリート各タイタン、ファイヤ。」

心なしか上ずった声に従って最後の審判が下る。

小さな爆発が起きる。間を置かずに全てを巻き込むかのような大爆発が起きる。

「敵トランス・スーパーキャピタルクラスバトルシップ、撃破。」

アルカトが呟いた。

初めての大規模交戦にずっとこわばっていたスザクの表情が緩んだ。釣られて私も笑いそうになる。

「コマンダー。九尾艦隊より通信です。」

「通信開け。」

「朱雀艦隊、こちら九尾艦隊だ。」

「どうした。」

「第五、第七フリートがそれぞれトランス・スーパーキャピタル級を確認した。こちらもかなり押されている。早急に後退するべきだ。」

「情報了解した。可及的速やかに避難作戦を完了させる。10分でそちらにスーパーキャピタルと朱雀を合流させる。それまで持ちこたえてくれ。」

「了解。」

通信が終了してすぐ、我を忘れてしまっていた。

この規模では攻勢の遅延さえ難しい。

新たなドクトリンが必要だ。

「全艦、艦載機を収容せよ、スーパーキャピタルはゲート防衛戦へ合流、その他の艦は救出フリートへ合流する。ゲート防衛戦への振り分けは追って指示する。」

アルカトが見計らって指示を出す。

先程とは打って変わった、強大な敵に怯えたスザクの顔を見た途端、少し我に返った。

「朱雀と第一から第二フリートはネリカ3ゲート、第三から第六フリートはネリカ8ゲート、第七から第十フリートはエデン・ガーデ4ゲートへ。全艦、ワープ準備、完了次第ワープせよ。」

微かに平静を保った戦士としての本能が、そう指示を出させる。心は未だ宙に浮いていた。

朱雀艦隊が散る。各個撃破されないことを祈りつつ。

「理事会に送れ。”敵規模防衛維持指針以上。二重前線ドクトリンでは全滅の恐れあり。白虎招集の要ありと認む。玄武に遊撃防衛ドクトリンを適用し、全土防衛に当たらせるべきである。”」

対処を言葉にして、初めて実感が湧く。







負け戦が始まる